第233回例会 2016.4.12 多田美千代先生講演会

    今回は嘉村磯多研究家の多田先生に「磯多の望郷」と題してご講演いただきました。仁保生まれの嘉村ですが、私小説家としては有名でもその作品を読んだことのある方は、それほど多くないと思います。まずは嘉村の短い一生を概説されました。仁保から現県立図書館の場所にあった山口中学へ通ったこと、学業は良くできたものの、身体的劣等感があって、それが彼の人生や作品に一種の「倦怠感」を色濃く漂わせることになったのだとか。    後に親鸞に傾倒し、やがては仁保の地から出奔し、昭和3年の「業苦」でやっと文壇に認められるも、暴露型の私小説家の陥りやすい「書くテーマの枯渇」に苛まれて、文筆生活立て直しの為に帰郷中に「途上」が文芸誌に掲載されて息を吹き返した磯多。再度の上京後も故郷仁保への愛着は抜けるばかりか益々強くなっていったのですが、わずか6年足らずの作家生活で39作品を残して東京で病没したのだそうです。享年35歳。晩年の彼は自らの人生を画聖雪舟に重ね合わせて、小品「故郷に帰りゆくこころ」「再び故郷に帰りゆくこころ」を発表しました。   磯多の生家は長年妹さんが守られていたとのことですが、やがて荒れ果てていたところ、このほど立派に復元されて宿泊も可能な施設になっています。彼の作品の真髄を理解するには、やはり現地に赴き、その風土を知ってこそ、と多田先生は力説されておられました。特に夏には驚くほどの蛍の光が明滅して、それはそれは美しいとのことでした。是非皆さんも一度訪れて見られてはいかがでしょう。かく申す私は、蛍には少々早いですが、来週土曜日に宿泊予定です。   また、前会長柴田三大さんに第二子がご誕生されました。おめでとうございます。さらには西村洋一さん渾身の作品「奇兵隊の風」が満を持して出版の運びとなりました。本の帯には大内倶楽部のことを大きく取り上げていただきました。嬉しい作家会員の誕生です。2年後には福田侠平を主人公とする次作も出版される予定だとか。ともかく今回も興味深いご講演に、おめでたいことが重なり大いに盛り上がった例会でした。【古谷 記】